「ヒューマン」10〜15分ほど

配役 4人 3人でも

ヒューマン 男

ササキ 男

カンナ 女

N(ナレーション)男女どちらでも、出番のない人がやるのもいい

ヒューマン(一人になってしまった。だからこれからは一人でいい。私一人でいい。)

N 年がら年中、雨と犯罪の絶えない灰色の街。
世界にたった一人の超能力者とそれ以外の人類。
いつから彼は一人なのだろう。

ササキ「 ハアッ!ハアッ!ぐっゴホゴホ…何なんだッ!なんでこんな目に会わなきゃいけないんだ!くそッ!くそ!」

N 人通りのない路地裏で血反吐を吐きながら悪態を吐く男がいた。
真っ黒なコートが所々、血と泥で汚れていることから、まるで戦場から抜けてきたばかりのようだ。
そこへ、彼を探す者が現れる。

カンナ 「あの〜すみません。たまたま通りがかったんですけど、もしかしてお怪我されてますか?良かったら手を貸しましょうか?」

ササキ「…ッ!俺に近づくんじゃねえ!!てめえもあいつの手先か!!」

N 砂埃にまみれた手に握られているのは拳銃。法なんてものはずっと昔に化石となったこの街では珍しくもないが

一人の女性を仕留めるには十分だ。

カンナ 「あらら、犯罪者の方でしたか!あなたが何を言ってるかわかりませんが、そうと分かれば捕まえなきゃいけませんね…」

ササキ 「てめえ『モノズキ』か!くそッくそッくそッ!!」

N 毒づきながらも放たれた3発の弾丸、取り乱しながらもそのどれもが必殺の一撃となるべく『モノズキ』と呼ばれた女性というには少し幼さの残るカンナへと向かう

カンナ「いくら私たちでも当たれば痛いんですよ?死ぬほどね?」

N 当たれば 彼女はそう言った。そして、そうはならなかった。狭い路地裏でどういう動作を取ったのか、彼女は地べたに座り込む男の真横に立ち、銃を掴んでいた。だが…

ササキ「馬鹿が…」

カンナ「ウッ…! 」

ササキ「モノズキの奴らは爪があめえんだよなぁ〜…!今日は生憎先約もいるからサッサと死んでくれよ」

N 横を取ったカンナを襲ったのは不可視の弾丸。ササキの持つもう一丁の拳銃が自身のジャケットを死角にして内側からカンナを捉えた。

カンナ(あれ。私、死んじゃうの?)

ササキ「じゃあな、化け物」

N ズン… と低い音が響いた。
放つはずだった弾丸は、手首ごと無かったことにされ、壊れた蛇口のように鮮血を吐き出した。

ササキ「アアァァァ……!何だってんだよ!!!くそッくそッくそッくそおお!!!」

N 手首が切られた事実、痛み、驚きを全て怒号に変えて瞬時にもう一丁の拳銃で反撃に移る。
落ちた手首の側に立つ、灰色のコートに無地のマスクを被った ニンゲン へと弾丸は向かう

ヒューマン「クックック。運命の再開にささやかな祝砲か?」

銃声の後、カラカラコロコロと薬莢と弾丸が転がる音がした。

ササキ「ッ……ぐうぅゥ…ッ!!!なんで顔面に撃ち込んでも死にやがらねえんだ!!」

ヒューマン「貴様こそ腕を落としたのに元気なものだな…?自分がボスの組織も部下も捨てて、路地裏で今や食物連鎖の底辺だぞ?その元気だけが今やお前の財産だ…大事にしなきゃなあ?」

ササキ「ガッ…ァあああ…!!なんなんだてめえはよぉ!政府の犬か!他の組織か!?」

ヒューマン「どちらでもないし、そんなものと一緒にされては困る。そこに寝ている女性が政府の犬か?強化人間…巷では『モノズキ』何て言われているそうだな?悲しい話だぁ…おっと!まだまだお寝んねするには早いぞ?」

N そういって死にかけの男の腹を蹴飛ばす。灰色のコートに無地白色の覆面の男『ヒューマン』

ヒューマン「悲しいよ。本当に。私の頑張りが足りないばかりに若者に人体実験にも似た手術を受けさせてしまっている…この世を平和にした後に若い芽が残っていなければ意味がないというのに…。」

ササキ「ガハッゲボッ・・・!ハッ!笑わせてくれるな…こっちはお前のせいで肋骨も腕も無いんだ。傷口が痛むだろうがよ。平和なんてもう来ないんだよ…」

ヒューマン「するさ。私が。悪を根絶やしにしてね?」

N たった今、平和と口にした人物のシルエットが、いびつに歪みその手が斧に変わる

ササキ「…化け物め」

ヒューマン「私は誰よりも人間さ。」

N 再び路地裏に、ドサッと音がして静寂が訪れた。
しかし、再び静寂を破るマヌケな声が上がった。

カンナ「きゃー!!!覆面の人殺し!」

ヒューマン「おはよう。無事でよかったね。そして訂正だが、人殺しでは無い、悪人殺しだ。」

カンナ「え?え?え?おはようございます?…いや、え?」

ヒューマン「まだ少し意識がボンヤリしているようだけど命に別状はなさそうだ。では…」

カンナ「まってください!!人殺しを見逃せません!」

ヒューマン「奴は、ササキ。この街で人身売買から麻薬に暗殺だって請け負う組織のリーダーだ。先ほどその組織を潰して来たところだが、ササキにだけ逃げられてしまってね。こうして、トドメを刺しに来たわけだよ…では」

カンナ「ササキってこの街最大の組織のリーダー…え?なんで?貴方はなんなの?」

ヒューマン「私は正義の味方、そして見方を変えれば悪人殺しだ。そこの死体は勝手に持って行きたまえ、こんなクズでも莫大な金と地位を君にくれるだろうし、役立ててくれよ?」

カンナ「あ!まってくだ…!行っちゃった…垂直跳びでビルの上に行っちゃうなんて…新しい政府の技術?でも、完全に人の範囲を超えてる…腕が変形したりなんて・・・」

N 路地裏に残されたカンナは、呆然としていた。街最大の悪の死体、そしてそんなものちっぽけに思える存在に出会ってしまったのだから…

つづく

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